不動産賃貸を「事業」として取り組むにあたって、収益物件を購入する場合、「個人名義」と「法人名義」ではどちらが有利なのでしょうか?それぞれの特徴についてご説明いたします。
■税率の違い
事業主の所得状況や投資規模、家族構成等により、どちらの投資スタイルのメリットが大きいのかは一概には言えませんが、メリット差を出しやすいのは、投資から入る所得に対する税金の支払額です。
近年の税制の流れを見ると、個人負担は増税、法人負担は減税の傾向にあります。個人の課税所得は累進課税となるため、個人として不動産投資を続けていくと所得が多くなればなるほど高い税金を納めなければなりません(最大45%+住民税基本10%)。対して法人の法人税の税率は個人と比較して優遇されています(資本金1億円以下の法人の場合は、最大34%)。
■法人化の「メリット」
①経費の自由度が高まる
個人名義の場合は、賃貸経営の事業資金と個人資産の線引きが曖昧なため、事業による収入と経費の関係性が税務署から厳しく精査されることになりますが、法人の場合、事業に必要な用途であれば基本的には認められます。
②役員報酬の支払いによる所得の分散(税金対策)
法人を設立し、身内を役員にし、法人名義で購入した収益物件から得られる収入から役員報酬を支払うことにより所得の分散が図れます。そうすることによって一人当たりの課税所得が少なくなり、結果手残り収入が増えます。報酬は経費として計上することができますが、もちろん役員はその報酬に見合った仕事をしなければなりません。
③役員退職金の支払いによる税制上の優遇
個人の場合は、自分が事業を辞めても退職金を支払う・受け取るという概念は有りませんが、法人の場合は役員に退職金を支払うことができます。詳細は「退職所得」(国税庁ホームページ)をご参照下さい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
法人は退職金(適正な金額)を損金に計上することができますし、退職金受けとった役員は、退職金(退職所得)が税制上優遇されていますので、税の負担を軽減することが出来ます。詳細は「役員の退職金の損金算入時期」(国税庁ホームページ)をご参照下さい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
④金融機関など、取引先の信頼度が上がる
一般的に、「個人」の場合は事業資金と個人資産の線引きが曖昧なケースもあり、金融機関や取引先から見ると事業資金の運用が不透明だという不安要素が残ります。一方、「法人」の場合はその線引きがしっかりできるという観点から、金融機関や取引先からの信頼度も高く、融資による資金調達や取引がしやすくなるといったメリットがあります。
■法人化の「デメリット」
法人設立費用として約20~30万円が必要です。また、法人住民税の均等割はたとえ赤字であってもかかりますし、決算申告をするための税理士報酬や、役員変更の際にかかる登記費用も必要です。さらに、法人化すると規模にかかわらず、社会保険の加入が義務となっています。これは社員が代表一人の場合も例外ではありません。対して特定の業種と常時4人以下の個人事業主は従業員を社会保険に加入させる義務はありません。このように法人化には煩雑な作業やランニング費用がかかるというデメリットもあります。
■「個人名義」と「法人名義」どっちが有利!?
それぞれのメリット・デメリットを念頭において、綿密なシミュレーションをした上で選択する必要性がありますが、個人(所得税と住民税)と法人(法人税)の税率が逆転する課税所得は「900万円」です。課税所得が900万円を超えると個人の税率の方が33%を超えて法人の税率より高くなりますので、課税所得が900万円を超える時が一般的に法人化へ移行するタイミングの一つの目安になると言えます。
■事業の拡大を考えているなら法人化を!
また法人化を選択する一番のポイントは「賃貸事業を拡大するどうか?」というところにあります。今後、所有物件を増やし、事業を拡大していこうと考えられているのであれば、「個人」では必ず限界が来てしまいます。次の物件購入のための融資を受けるにあたり、金融機関から認められるには、賃貸事業の実績として最低でも2~3期の黒字の決算書が必要です。所謂金融機関が好む「きれいな決算書」を作り、金融機関との信頼関係や有利な融資条件を作っていくのには時間がかかります。今後、賃貸事業を拡大していこうと考えているなら、早めに法人化を行い、実績を積んでおくことをおすすめします。
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