■認知症社会の到来
厚生労働省発表によると、2017年の日本人の「平均寿命」は男性81.09歳、女性87.26歳で、いずれも過去最高を更新しました。2050年には、女性の平均寿命は90歳を超える見通しです。しかし、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間とされる健康寿命は、男性で9.1年、女性で12.6年平均寿命より短いとされています。
昨年8月26日、日本経済新聞の一面に、「認知症患者、資産200兆円 30年度マネー凍結懸念」という記事が掲載されました。2025年の認知症高齢者は、約700万人(高齢者の約5人に1人)に達するとのデータもあります。これらの認知症高齢者の資産がどうなるのかが、今後大きな社会問題になってくると考えられます。
■認知症になると、資産はどうなるのか?
認知症を発症すると、物事の判断能力がなくなります。判断能力がない状態で行った契約行為は法律上無効となり、財産の管理・運用・処分が行えません。つまり資産は「凍結」されるということになります。資産が凍結されると、預貯金は引き出せなくなり、不動産は売却やリフォームができません。また相続の場面では、遺産分割協議が出来なくなります。要するに、現状の資産には全く手がつけられないということです。
■認知症と成年後見制度
認知症などで「判断能力が不十分な方」が不利益な契約を結んでしまうなどの被害に合わないために、法律面や生活面で支援する制度が成年後見制度です。後見人の主な役割には、下記の二つがあります。
①財産管理
被後見人の預貯金の管理、不動産の売買契約の締結、賃貸借契約の締結、遺産分割協議への参加など
②身上監護
介護契約や施設入所契約の締結、病院や治療の手配など。
■法定後見制度の実情
法定後見制度は、本人が認知症になった後に家族などからの申し出により、後見人を家庭裁判所が決定する制度です。後見人が選任されると、被後見人の財産管理は後見人が行うことになりますが、基本的に、「被後見人の財産を減損させないこと」が後見人の目的となります。従いまして、賃貸マンションの改修工事や資産の売却などは原則同意しません。家族の思いや本人の希望には応えることの出来ない制度になります。
■重荷になる後見人の費用
後見人に専門家(弁護士や司法書士など)がなった場合、後見事務の遂行にあたり毎月後見人報酬がかかります。管理財産額によりますが、管理財産が5,000万円以下の場合の基本報酬額が月額3~4万円。5,000万円を超える場合には月額5万円以上になります。後見制度は、被後見人が亡くなるまで継続しなければならないので、ご家族にとって後見人にかかる報酬はたいへん大きな負担となります。
■家族で財産管理を行うには
このように、認知症になってからでは法定後見制度を利用するしかなく、財産管理も制限される上に多大な費用がかかってしまいます。家族で財産管理をしていくには、認知症になる前に対策をしておく必要があります。その方法の一つが「家族信託」です。家族信託を活用することにより、裁判所や専門家でなく、家族による財産管理と承継が可能になります。家族信託の仕組みや活用方法については、次回でご紹介させて頂ければと思います。
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