被相続人が死亡し相続が開始されると、遺言書がある場合、遺言書に従った遺産分割がなされます。遺言書がない場合、相続人で遺産分割を協議することになりますが、この遺産分割協議に期限は設定されていません。そのため話し合いに消極的な相続人がいる場合など、遺産分割が長時間放置され、その結果として相続登記がなされず所有者不明の不動産が増加し続けています。
そこで今後所有者不明の不動産を増やさないために、民法の改正が行われました。今回はこの改正により何が変わったのか、どんな影響が考えられるかについてお話したいと思います。
■遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、遺言がない場合の遺産について、誰が、どの遺産を、どんな割合で相続するかを話し合う事です。遺産分割協議が成立するまでは、遺産は法定相続人の共有となり、預金の名義変更や不動産の処分はできません。しかし、この遺産分割協議の成立には、相続人全員の参加と同意が必要になります。ただ実際の相続の現場では、何らかの理由で話し合いに参加できない、そもそも以前より揉めているなどで遺産分割協議ができない場合も多く見受けられます。
■遺産分割協議の期限
相続が発生した場合、例えば相続税の申告は10カ月以内、相続放棄は3カ月以内と期限が決められているものもあります。しかし遺産分割協議については、改正前の民法では特に期限は設けられておらず、相続開始から何十年経っても特段問題はありませんでした。
また、遺産分割協議の話し合いにおいては、期限がなかったことに加えて「特別受益」「寄与分」という権利の主張が長期化する原因となっていました。
■「特別受益」と「寄与分」
「特別受益」とは、生前に被相続人から特定の相続人が特別な贈与を受けていた場合、その贈与については、相続財産に持ち戻すことで遺産分割の公平を図る制度です。
例えば、相続人には子どもが二人いて、遺産の総額は5,000万円。被相続人が生前一人の子どもに2,000万円を贈与していたとします。この場合、贈与の2,000万円は「特別受益」に該当し、遺産額は5,000万円プラス2,000万円の計7,000万円として話し合いをすることになります。
「寄与分」はこれとは反対で、被相続人の生前に特定の相続人が、被相続人の財産の形成に大いに貢献した、特別な療養看護を行ったなどした場合、その相続人の相続分を法定相続分より多くする制度です。
例えば、相続人には子どもが二人いて、遺産の総額が5,000万円。一人の子どもが被相続人の事業を手伝い財産形成に大いに貢献し、その貢献の額が2,000万円だったとします。その場合、遺産額は5,000万円マイナス2,000万円の計3,000万円として話し合いをすることとなります。
■「遺産分割協議」が長期化する要因
これまでは「特別受益」や「寄与分」をはじめとする遺産分割協議に期限がなかった事により、遺産分割を積極的に進めなかったとしても、相続人に不利益となることはありませんでした。そのため、話し合いが困難、分割の諸手続きにお金がかかる、そうこうしている間に相続人に二次相続が発生し、そもそも話し合いが出来ないといったケースも多く、このことが所有者不明の不動産を生み出す原因にもなっていました。
■「遺産分割協議」は10年以内
そこで遺産分割の早期解決を促すために、令和3年4月「民法の一部を改正する法律」が成立し、今年4月1日に施行されました。遺産分割における相続人の特別受益・寄与分を主張できる期間を相続開始から10年以内とするという内容です。
これにより、今後遺産分割裁判では、相続開始から10年を超える相続については、特別受益・寄与分を考慮せず、法定相続分をベースとして判断されることになり、訴訟の早期の解決が図れるのではと思います。適用の範囲は、改正以降に発生した相続だけでなく、改正前に発生した相続も含まれます。但し一定の猶予期間が設けられています。
■「10年後、自動的に法定相続分となる」は誤解
しかし、改正後は、相続開始から10年経過すると「自動的に法定相続分」で分けないといけないと言うのは誤解です。あくまでも主張の制限を規定したものであり、相続人全員の話し合いによって法定相続分と異なる内容の合意が成立した場合は、これまで通りその合意は有効です。
いざという時にトラブルにならないために、相続については、被相続人がきんと遺言を遺し、財産の行く先を指定し、遺産分割協議の必要がないようにしておく事が大切です。遺言の作成については、遺留分の考慮も必要となります。詳しくお知りになりたい方は、お気軽にお問合せください。
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